1.4 情報操作

1.4.1 情報操作の意味

 情報の伝達を行う場合,発信者は,伝達したい自分の意図を,正確に他者に伝えようとする.その時,手持ちの情報を効果的に表現して,他者に伝達しようとする.正確に意図を伝えるためには,例えば,伝達する情報の順番を変えたり,強調すべき情報を反復したりすることがある.しかし,このように,自分の意図を効果的に伝えるために,情報を操作することに関しては問題は少ない.

 情報操作とは,情報を発信する側が,自己あるいは所属する団体の利益のために,意図的に情報を独占,隠匿,ねつ造,改ざんなどを行い,他者の利益を損なったり,欺いたり,社会的不安を引き起こしたりする行為である.台風や地震などの天災や,単純な入力ミスなどのコンピュータの誤操作によって,結果的に虚偽の情報が生成,発信され,他者の不利益を生じるような場合も考えられる.しかし,そのようなケースは,発信側のセキュリティの問題として考えるべきであり,作為的な情報操作とは異なる.

 情報倫理で問題となる情報操作とは,発信者が自己の利益を追求するあまり,結果的に個人や社会の利益や権利を損なう,あるいは欺くような,情報の恣意的な操作をさす.このような情報操作が行われる原因としては,情報の扱いに関する個人の倫理観のみならず,利潤を追求する企業などの経営倫理にも,深く関わっている場合が多い.

1.4.2 情報の独占・隠蔽

 情報の独占・隠蔽とは,公開するべき情報を,個人あるいは少数の人々のみで情報を占有して不当に利益を得たり,自分たちが不都合な情報を隠蔽し,開示を拒否するような行為である.例えば,企業が公開すべき自己の経営情報を隠蔽したり,国や地方公共団体によって保持されている情報を公開しないなどの行為は,情報の独占や隠蔽にあたる.また,企業内部の関係者しか知ることのできない情報を独占して,株価の売買を行い,利益を上げるようなインサイダー取引は,証券取引法で禁止されているにも関わらず,行われて問題となる場合がある.

 一方,例えば,誘拐事件などの場合,報道機関や警察において,被害者の安全を考慮して情報を公開しないような場合がある.しかし,この場合は,人道的な見地から情報を非公開にするのであり,情報を発信する側の利潤追求のために行う情報の隠蔽工作ではない.情報の倫理観が問われる情報の独占・隠蔽とは,情報を発信する側の利益を追求する意図で,情報を不当に占有し,隠匿する行為である.

 近年,地方公共団体では,公務員の汚職や企業との癒着を防止し,公明で公正な地方自治を実現するため,各地で情報公開条例が施行され,会議録や各種の調査で得た情報の開示が行われるようになった.

1.4.3 情報のねつ造

 情報のねつ造は,情報を発信する側に都合の良い情報を,意図的に創造して広めたり,不明確な情報を流布したりする行動である.情報のねつ造に関しては,例えば,厚生省に対して,製薬会社が新薬販売の許可申請のために,虚偽の臨床データをねつ造して申請を受けたり,自社の株価を引き上げるために虚偽の風説を広めるなど,企業の利潤追求のあまりに引き起こされる事件が多く,問題となっている.

 また,競争相手を攻撃する目的で,虚偽の情報を流布する事件も起きている.特に,パソコン通信の掲示板や,インターネットのニュースグループやメーリングリストなどで,相手の名誉を毀損するような虚偽の情報を一方的に流したり,Webページに,相手の人格や人権を侵害するような画像をねつ造して,掲載したりするような行為は,許されることではない.

 テレビや新聞などのマスコミが,報道のインパクトを高めて,視聴者や読者に対して注目を集めるために虚偽の報道を行う場合がある.このような情報をねつ造して流布する,いわゆる「やらせ」の事件も跡を絶たない.1989年4月,沖縄の珊瑚礁の保護を訴える記事で,報道する側のカメラマンが故意に珊瑚礁を傷つけて,報道したことが発覚し問題となった事件は,マスコミの信頼を失墜させる事件であり,報道機関が守るべき倫理観に対する議論が巻き起こった.

1.4.4 情報の改ざん

 情報の改ざんは,情報を管理する側が,自己の利益を守るためや,他者の利益や権利を侵害するために,データを改変させて事実とは異なる情報を流す行為をいう.例えば,企業の粉飾決算報告や,公務員の不適当な公金支出を隠蔽するための帳簿の改ざんなどの事件が起きている.また,コンピュータシステムを管理する企業(団体)内部の職員が,顧客のデータベースに侵入してデータを改ざんし,詐欺行為に及ぶような犯罪が起きるようになった.また,近年,コンピュータネットワークのインフラが整備されてきたことを悪用して,外部からネットワークを通じて個人情報を蓄積したデータベースに不正侵入し,データを改変して,自己の利益を守ったり,他者に迷惑をかけるような事件が起きるようになってきた.

1.4.5 情報の隠滅・消去

 情報の隠滅は,情報を管理する側が,自己の利益を守るため,あるいは他者の利益を侵害することを意図して,公開すべき情報を焼却したり,消去したりすることである.例えば,企業や公共団体が不正や不祥事を行った場合,追及や刑罰を逃れるために,証拠となる書類を焼却したり,隠したり,デジタル情報であれば消去したりする事件が起きている.